オーディオ都市伝説について考える。

 昔から一部のオーディオ愛好家の間では「こうすれば音が良くなる」という話題が盛んです。「音を良くする」手法は、なるほど一理あるな、と思わせるものから、完全におまじないレベルのものまでバラエティに富んでいるわけですが。

 最近パラパラと斜め読みした麻倉怜士の『高音質保証! 麻倉式PCオーディオ』という本。電子的あるいは機械的なノイズを軽減するための推奨システムなど、なるほどな、と感じる部分も多いのですが、以下の記述だけは引っかかる。大意をまとめてみると、
 これはどうなんだ。

 「CDを再生するとき〜」というのは、もしかしたら工学的にこんな説明が可能かもしれない。
 でも「リッピングの際も〜」云々は、ちょっと納得し難いな。納得し難いので、自分で確かめてみましょう。やり方は単純に、こんな感じ。
  • CDをパソコンのトレイにセットする。
  • 好きな曲を選んでリッピング。
  • 同じ曲を、もう一度リッピング。
  • もう一度リッピング。
 これでPCのHDD上に、同じ曲の音声ファイルが3つ出来ましたね。これら3つのファイルに「データ的な」差異があるかどうかを調べてみます。
 ウチのマシンはMacなので、ターミナルを立ち上げて、cmpコマンドを使って
 $ cmp first.mp3 second.mp3
…なんてやってやれば、ふたつのファイル間に違いがあるかどうかをチェックすることができます。

 結果は、3つのファイルは全て同一。データ的には1ビットも違いがありませんでした。実際に聴き比べても、違いは全く感じられません。
 結論:「二度目のリッピングが高音質」というのは都市伝説。
 …などという判断を早急に下すのには、かなり問題があるので注意してくださいね。以下の点を考慮に入れなくてはなりません。

  • 「物理的に同じ」ものを「感覚的に違う」と感じることは、そう珍しいことではない。
  • 人の感覚は「心理的バイアス」に大きく左右されがちである。
  • そもそも「音が良い - 悪い」あるいは「同じ - 違う」というのは、個人の主観に基づくものである。主観(人各々の感じ方)というのは「どちらが正しい - 間違っている」という次元の話ではない。

すなわち、この問題を一歩進めるとするならばこうなる。
二度目のリッピングが、データ的には他と変わりないのにも関わらず、一番よい音に聴こえるという人が存在するのは何故だろう。
これはもう工学的・物理的な問題ではなくて、完全に心理学の分野の話になりますね。きっちり研究してみるのも面白いかもしれません。

 まぁ個人的には、いちいち「二回リッピング」なんて面倒なことをしようとは思わないけれど。だって音、変わらないんだもん。

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