雪の華。

日付が12月31日に変わった頃。

自室でパソコンに向かっていると、傍らのケータイが不意に震えた。

件名:《 なし 》
本文: 雪ですよ!!!


まったく、彼女はどうしていつまで経っても丁寧語なんだろう…
僕は苦笑しながら、カーテンを開けてみる。部屋の湿気で曇ったガラスを手でそっと拭うと、街灯にぼんやりと照らされて、舞い落ちてくる細かな、雪。雪は溶けて消える事無く、アスファルトの上で風に踊っている。

年末に突然訪れた寒波は、この街にも雪を運んできた。今年最初の、そして最後の雪。あと24時間足らずで新しい年が始まる。

雪は、街の騒音や汚れを包み込みながら、静かに降り続いていく。まるで今年、僕や、彼女や、世の中に起きた事すべてを優しく覆い隠すように、静かに、静かに。

件名:《 なし 》
本文: ほんとだ。雪だな…

もう少し気の利いた返信をしたほうがいいのかも知れないな。僕はまた苦笑して、送信ボタンを押した。大丈夫。僕らの距離は、思っているよりも近い。

窓の外では、雪が降り続いている。
僕はカーテンを引いて、そっとケータイを閉じた。


雪の華 / 徳永英明

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