タイの僧侶。

タイについて、いろいろ調べているんだが。

タイの主要宗教は上座部仏教。お坊さんは、227もの戒を守らねばならんのだそうだ。その中には「女体に触れてはいけない」っていうのもあって、僧衣がちょっとでも女性に触れてしまえば修行をやり直し…なんて事もあるそうだ。

ということは。


 日の暮れかけたバンコクの郊外。
 川沿いの道を、黄衣をまとった僧が、ゆっくりと歩いている。

 すると。
 彼に駆け寄ってくる、小さな影。

  「誰か、誰か助けてください!」

  「おぉ少年、いったいどうした?」

  「あぁ、お坊様!こっち。こっちへ早く!」

 見ると、雄大なチャオプラヤーの流れの中に、今にも飲み込まれそうな少女の姿が。

  「おねぇちゃんが川に…。早く!早く助けて!」

  「しかし…」

 僧は呟いて、目を閉じた。

  …助けたい。否、助けなければならぬ。しかし…。
  しかし、溺れているのは少女。彼女に触れたその瞬間に、
    この15年のあいだ積み重ねてきた、私の今までの修行は無に帰してしまう。
  仏教に帰依した者として、いや人として、少女を見殺しにはできぬ。
  しかし…

  「おねぇちゃんが!」

 少年の声に、僧ははっとして目を開けた。
 目に飛び込んできたのは、既にもがく気力も無くなって、
 ぐったりとしながら、まるで人形のように下流へと流されてゆく少女。

  「お坊様!」

 涙をたたえて、少年は僧を睨みつける。
 僧は少年の瞳をまっすぐに見つめ、そしてゆっくりと川面に視線を戻した。

  「よし…」

  15年の歳月が無になるくらい、何だと言うのだ。
  私は今、修行をやり直す事が嫌なばかりに、尊い命を見殺しにしようとしている。
  その考えこそが、私に修行が足りていない証拠ではないのか?
  この15年の修行は無駄だったという事ではないのか?

  だとしたら。

  だとしたら、ここで少女を見殺しにしてこのまま修行を重ねて何になる?
  
  「お坊さま…」

 僧は少年に向き直って力強くうなずくと、大きくひとつ息を吸い込んで、
 チャオプラヤーの流れに一歩、足を踏み出した…


な〜んていうドラマが繰り広げられていたりするのだな、きっと。


…さて、荷造りしよ〜っと。



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