夕方7時頃だろうか。
人気の無い、木々に囲まれた公園のベンチに腰掛けた。辺りは薄暗くなり始めているが、本を読むにはまだ充分な明るさである。帰りがけに書店で購入した文庫本を開く。
『新耳袋 第十夜 現代百物語』
角川文庫版も遂に完結である。長かったな。そんなことを思いながら、ページをめくってゆく。木々を揺らす風の音が、時折聞こえるだけだ。その音も、本の内容に引き込まれるにつれて段々と意識の内から遠ざかってゆく。
と、その時。
突然、左肩にドン、という衝撃。
そして生暖かい気配。
恐る恐る横目で窺ってみると...
カラス。
左肩にカラスが留まっているの。有り得ない。
思わず「おおおおおおおぉおおお」と低い悲鳴が出たね。心臓バクバク。
カラス、でかいんだよ。そして重い。真っ黒。異常な威圧感。こっちは恐怖でピクリとも動けない。奴は、まるで普通に木の枝に留っているかのごとく平然としている。
ムカつく。が、怖い。
動くと何をされるか分からない。
「公園でカラスに襲われ男性重傷」
そんな見出しが頭の片隅に浮かんだり浮かばなかったり。
しばらく動かずにいると(というか動けなかったのだけれど)、奴は何事も無かったかのように枝に飛び移り、去っていった。後になって冷静に考えてみると、カラスが肩に留っていたのは、時間にして30秒足らずだっただろうか。しかしそれは、生涯最長・最恐の30秒。
しかしなぁ。
TVで清水ミチコが「自転車に乗っていたら肩にカラスが乗った」なんてエピソードを話していたことがあったのだけど、それを聞いたときは「カラスが肩になんて留るかよ」なんて突っ込んでいたのだが、まさか自分にカラスが留るとは。このカラスは『新耳袋』の怪しい空気が呼んだものに間違いない。
だって有り得ないもん。
怖い怖い。
さてさて、この『新耳袋 第十夜』の帯に広告が載っていて、それによると現代百物語の新シリーズ『九十九怪談 第一夜』というのが7月半ばに刊行されるようだ。
期待。
でもカラスを呼ぶのは勘弁。
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