「違法ダウンロード処罰化法案」。冷静に問題点を考えてみる。

さて、他にやる事が山ほどあるだろうに、この時期にこんなニュース。

 → 違法ダウンロード処罰へ法案=自公:時事ドットコム

現在のところ刑事罰が課されない「違法ダウンロード」に処罰を与えようではないか…という法案です。まだ具体的な内容が見えていないのでアレですが、ユーザーにとって、おそらく一番危惧されるポイントは「何をもって違法ダウンロードと看做されるか」というところ。

現行の著作権法では、
  • ネット上に合法的にアップロードされている動画・音楽etc.を、私的使用の目的のために、使用者本人がダウンロードして利用する行為。
  • ネット上に違法にアップロードされている動画・音楽etc.を、違法なものとは知らずに、私的使用の目的のために、使用者本人がダウンロードして利用する行為。
…は「私的使用のための複製」と看做されるので違法ではありません。
著作権法の全文はコチラ(著作権情報センター)で閲覧できます。関連するのは第三十条。TubeFire事件のときにちょっとまとめてみたこちらの記事も参照してみてください。
で、ウェブブラウザやメディアプレーヤーのキャッシュ。著作権法では、「キャッシュは複製物とはみなさない」とされています。キャッシュは複製物ではないので、著作権を侵害している/いない…という議論の対象にはなり得ません。ただしそれは「元のコンテンツが合法なものである場合」に限ります。
関連条文は第四十七条の八。くわしくは、これも以前に書いたこちらの記事をどうぞ。
つまりどういう事かと言うと、
「昨日の歌番組を見逃したので、YouTubeで動画を検索してみた。見つけたので再生してみる。一般ユーザが勝手にアップロードしたものだった」
はい、これでアウト。あなたのパソコンの中、ブラウザのキャッシュフォルダには「違法にアップロードされた動画の違法な複製物」が見事に保存されているのです。「違法な動画だと気づかなかった」という主張は通るかもしれませんが。

この辺りの線引きが微妙です。

ヤバすぎるでしょ。日常、普通にネットを使っている人のうち、どのくらいの人が「真っ白」と胸を張って言えるのか。現状では事実上お咎めなしなのだけれど、これに罰金や懲役を課そう、という法案なのですね。

とりあえず現時点では「著作権法違反」というのは基本的には親告罪なので、著作権者が訴え出ることが必要なのですが、もし著作権ホルダーが本気出したら完全にアウト。

そしてあまり考えたくないけれど、国家権力が「あいつ怪しいから適当な罪名で引っぱっとくか」と考えたり「ちょっとお金が足りないから罰金で儲けよう」なんて思ったりしたら…。

いろいろ応用が効く、素晴らしい法律ですな。

もちろん、著作者の権利は守らなくてはなりません。これは当然。ただそれならば、まず「違法アップロード」のほうを何とかしなさいよ。アップロードの取り締まりのほうが「違法ダウンロード」をしている人を特定するより何百倍も簡単にできるでしょ、

その努力をしないまま、この新法案を提出しようとする意図が分からない。国民のほとんどが潜在的な容疑者になってしまうような法案の、真の意図はどこにあるのだろうね…などと勘ぐってみたくもなりますわな。


【追記】
なんだか違法ダウンロードやダウンロード厨を擁護しているように読めなくもないので一応。

著作権者の権利は守られなくてはならない。これは大前提。
 ↓
で、もしそれが「モラル」という範囲で守られないのであれば、法律で違反者に処罰を与えたりするのは当然。
 ↓
ただしその場合は、どこまでがセーフでどこからがアウトか、という処罰を付する範囲を、みんながある程度納得できる形で明確化すべき。現行の著作権法では、その辺りがまだ曖昧に思えます。
 ↓
また、本気でネット上での著作権法違反を減らそうと思っていて、且つ本当にそれが目的ならば「違法ダウンロード処罰化」よりも「違法アップロード摘発に全力を挙げる」ほうが得策なのは明らかだよね。まずそれをしないで、どうして新法案?
 ↓
もし本当に違法ダウンロードを処罰化するのならば、その時は線引きをきっちりしてくださいね。どこまでも拡大解釈/玉虫色の解釈ができるようなものではなく、現実に即していて、明確な線引きを。

…という事を書きたかったのです。

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