福岡市内の競馬場。番外編。

 さて前回、「大正から昭和初期にかけて、福岡市内・高宮辺りに競馬場があったのだなぁ」ということを書きました。その高宮競馬場が閉鎖された後に、今のJR春日駅前あたりに開設されたのが春日原競馬場。この春日原競馬場はかなりの規模と設備が整っていたらしく、いろいろな資料に登場します。

 例えば、昭和十四年に福岡協和会から発行された『筑前博多』という本。福岡・博多とその近郊のガイドブックといった趣きの冊子です。ちょっと引用してみる。
近郊ところ〴〵
 九鐵電車を利用して近郊ところどころを御案内致しませう。

   (中略)

【春日原】に下車しますとすぐ大グラウンドです。總ゆる競技が出來ます。西日本随一と誇つて居ります。(中略)又 省線路を踏切れば「大競馬場」もあります。

※原文はルビ付き。旧かなづかい、旧字体、太字は原文ママ。
 九鐵、というのは現在の西鉄天神大牟田線です。沿線各駅の見どころを紹介したセクションからの引用。文中の「大グラウンド」というのは、現在のJR春日駅と西鉄春日原駅に挟まれた場所にあって、以前調べた春日原球場もこの大運動公園の中にありました。
 九鐵・春日原駅を降りて西側に出るとすぐ「大グラウンド」があって、そのまま進んで省線(国鉄)の線路を渡ると「大競馬場」がある、という位置関係ですね。

 さて、この『筑前博多』という本、とても読み易い、味のある文章で綴られています。ところどころにユーモアのセンスも感じられて、読んでいてまったく飽きることがありません。
 またちょっと引用してみる。
喫茶とカフエーと酒場
 餅菓子屋の店頭で澁茶をすゝり和菓子やぜんざいを賞味した時代は去りました。今はピトログラスのすがすがしいテーブルでコーヒーの香りを楽しみ、アイスクリームに夏を忘れる喫茶風景が博多の盛り場 東中洲の新點景となつています。明治製菓、サニー、ブラジレイロ、サンライス等 仲々の評判です。そしてどこの給仕も美しく清楚で頗るよろしいと褒められて居ります。
 ネオンライトとジヤズの流るるところ臙脂青黛とりどりに装ふ女給のウインク、さては、媚笑狂態の限りを盡くしてのサービスを求むるお方は博多のカフエー情緒を味はふのです。
 どうよ、このステキな文章。
 昭和初期の東中洲のカフエーに是非とも寄ってみたくなるような、この文章の素晴らしさ。観光ガイドブックとしては出色の出来映えだと思うのですが、如何でしょう。全編引用したいという欲求にかられてしまいます。
 
 わたくしも常々、このやうな読み易く調子よい文章を紡ぎたく思つて居るのです。しかし仲々考へるやうには綴れぬのですね。痒さを覺えます。日本語の奥深さ、或は難しさの所為でせうか。

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