三木大雲。

 怪談業界で近頃、じわじわと知名度を上げている三木大雲。現役の住職さんなのですな。彼の初めての著作がこれ。

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 『新耳袋』以来、怖い話のスタンダードになっている「実話怪談集」の類いなのですが、すべての話が、彼が実際に体験した事柄。ということで、他者への取材を中心とした『新耳袋』や『九十九怪談』などとは大きく趣きが異なります。

 また、彼がお坊さんだということもあってか、語り口も一種独特の味わい。

 イタズラに恐怖を煽るわけでもなく、なんというか、性善説なのですよ。「霊が現れたり、霊によって何かが引き起こされた」という事象に出くわしても、霊のことを「悪い」とか「怖い」とか言わないんだよね、この人。「何か伝えたいこと・訴えたいことがあっただけなのだろう」と考えてそういうモノと向き合う。その姿勢は、さすがお坊さん、という感じ。

 ひと味違います。好感が持てますなぁ。

 この本を読んでいると、仏教説話集を読んでいるような感覚になります。そんなに説教臭くはないし、宗教じみてもいないので、良質の「怪談集」として気軽に手に取れば良いのです。

 動画サイトを覗いてみると、三木大雲さんが怪談している動画がいくつか見つかるのだけれど、その中に「京都の某大企業(…ってあそこしか思いつかないけれどw)の社員が同期を呪殺しようとした」という話があって。
 相手が霊のときには「結果的に怖い思いをしたけれど、霊にも悪意があったわけではないかもしれない」とか「怖がりすぎるのは良くない」などとフォローを入れる大雲さんが、生身の人間が他人に向ける悪意に対しては「恐ろしいですねぇ…」と感想をもらす様には、同意をせずにはいられません。

 この世でいちばん怖いのは、生身の人間。

 ということで。


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