はてしない物語。

ミヒャエル・エンデが書いた児童文学の傑作「はてしない物語」。原題はドイツ語で「Die unendliche Geschichte」、英語だと、ご存知「The Neverending Story」となるのですが。

なんと素晴しい邦題なのでしょう。
「はてしない」…この言葉からは広がりや奥行きがイメージされ、「『はてしない物語』とは、一体どんな物語なのだろう」と興味がかきたてられるわけです。

もしここで、翻訳者が締め切りに追われ、精神的に追いつめられていたら、別の言葉を選んでいたかもしれません。

例えば「きりがない物語」と邦題を付けてしまっていたら。

非常にネガティブなイメージ。そんなウザそうな物語、誰が読むかよ!ということになり、誰もに愛される名作とはなり得なかったでしょう。

言葉選びって、大切です。

このような例は他にもあります。
「指輪物語」。ファンタジー文学の金字塔、映画も大ヒットしました。原題はもちろん「The Lord of the Rings」です。

Lordという単語には「王」「領主」「支配者」などという意味がありますので、翻訳者が安直に「指輪王」と邦題を付けてしまったとしたらどうでしょう。

『指輪王』
和歌山県の貧しい山村に生まれた喜八郎は、幼い頃に東京の裕福な家庭へと里子へ出される。喜八郎を実の子のように優しく、時には厳しく育ててゆく里親。
愛情に包まれながら成長し、やがて学校へ通い始めた喜八郎は、そこでデザインの才能を見いだされた。
「喜八郎は将来、絵描きか彫刻家になるといい」
幸せな暮らしもつかの間、里親の経営する会社が倒産。一家は離散。喜八郎は学校を辞め、小さな町工場で働く事になる。長時間の過酷な労働…その辛い作業の合間に、金属の欠片から見事な指輪を彫り出す喜八郎。
喜八郎は、ひそかに想いを寄せる町工場のひとり娘・妙子にその指輪を贈った。妙子のほうも、身を粉にして働く喜八郎の事を好ましく思っていた。しかし妙子は町工場を存続させるために、大財閥の御曹司・繁夫と結婚しなければならない運命なのだ。
ある日、繁夫は妙子の指にはめられた指輪を見つける。
「妙子、その指輪…」
「ああ、これは工場の喜八郎さんが…」
「なんだと、他の男から指輪を受け取るとは。このアバズレめ(…しかし見事な指輪だ。これは金になるかも知れぬ…)」
繁夫から資金援助を受け、指輪の工房を開く喜八郎。工房は順調に滑り出すが、実は繁夫は、喜八郎の里親の会社を謀略によって破産に追い込んだ張本人だった…
愛情のもつれ、搾取、裏切り、最愛の者の死 … それらの苦難を乗り越え、自分の才能を信じて努力を重ね続けた喜八郎は、いつしか周囲から「指輪王」と呼ばれるほどの富と名声を手にしたのだった。
という、昼下がりの帯ドラマのような物語を想像してしまいます。

はたまた、邦題が「指輪の領主さま」だったら。

『指輪の領主さま』
時は元禄。
戦乱の時代は遠い記憶となり、ここ九州の片田舎・日出国でも、人々が平和で長閑な日々を謳歌していた。当代の領主は木下俊家。穏やかな性格で、ひとりで馬に乗り城下に降りて農民たちと語り合うような、気さくな人柄であった。
彼は、木下家に代々伝わる「龍神様から授かった」という指輪をいつも嵌めていたため、親しみを込めて「指輪の領主さま」と人々から呼ばれ、人気を集めていたのである。
そんな平和なこの国に、ある日突然、大きな災厄が降り掛かる。それは「龍神様の指輪」にまつわる、因縁めいた物語だった。国の危機、人々の危機に、「指輪の領主さま」はどう立ち向かうのか…

という、これはこれで中々おもしろそうな話ではあるのですが、残念ながら「The Lord of the Rings」はこんな話ではありません。

他にも、発表当時、全世界の若者に影響を与えたといっても過言ではない J.D.サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」。この原題はそのまま「The Cacher in the Rye」なんですが、最初に日本で紹介された時の邦題は「危険な年齢」というのです。いかにも、な感じで、逆に本を手に取る事を躊躇してしまいそうになりますね。

音楽の世界でも、こういう事はあります。

世界中にパンク・ムーブメントを起こしたセックス・ピストルズ。
彼らの最初の(そして最後の)オリジナルアルバムの邦題は「勝手にしやがれ!!」。非常に素晴しい訳だと思います。原題「Never Mind the Bollocks」を直訳して「キン○マ野郎は気にすんな!!」としてしまうと、さすがにアレですね。
それから、オジー・オズボーンの1986年のヒット曲「Shot in the Dark」には「暗闇にドッキリ!」という完璧な日本語タイトルが付けられています。「暗闇で一発」と直訳すれば、なんだか下品な妄想が引き起こされますね。

映画でも、「STAR WARS」「宇宙大戦争」なんて邦題を付けられなくて良かった。本当に良かった。

直訳で正解の場合もあれば、そうでない場合もある。
難しいですね。

言葉選びって、本当に大切です。


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